「モノローグ」
土曜日のタリタリは、ジジババが多いんで避けてるんだが、昨日からコーシー飲んでないし、豆も切れたんで仕方ない。
で、タバコ屋でお試しでマルボロの電子タバコ吸いながら、やっぱ手巻きタバコやなと思いつつ、電子タバコなら喫煙室の外で吸えるんかなと思いつつ、けどマズイのなら本末転倒だなと。
で、吸ってるタバコを手巻きに変えたところで隣のジジイが熱い目線を送ってくる。いやーな予感。
案の定話しかけてくる。
それはタバコですか?
最近は、どこも禁煙でタバコを吸う場所がなくなってきた。
ワシが若い頃はタバコは、カッコいいものだった。
身体に悪いなんてウソじゃないだろうか?
僕の知り合いはヘビースモーカーだが100まで生きた。
そんなモノローグを延々としゃべりかける。
喫煙室のガラスの向こうでは、若いおねちゃんが食べてるケーキを一口づつ交換して、キャッキャと笑い転げている。いや、喫煙室は空間的に完全に閉鎖されているので音は聴こえない。
キャッキャというのは、ワシがつけたセリフだ。ガラスの向こうの光景は、無声映画のような映像で、リアルな感じがしない。だから、ワシはセリフをつける。
おいしーい。やだ口のハシに生クリームがついてるよお。
喫煙室の隣では、オバハンが2人健康談義に華を咲かせている。
テレビでやっていたボケ防止の方法から、話がスライドしてギャルソネの食いっぷりが気持ちいいと機関銃のように喋っている。
わしは心の中でこの会話に参加する。聴こえやしないから多少辛口に。
いや、あーたたちはぼけんだろうよ。
ジジイは相変わらず、タバコについての持論を語っている。ワシはほとんど聴いていないのだが、それでも嬉しそうに話続ける。
ジジイの隣に新しい客が入ってきた。ワンレンのおねいちゃん。
ちょっとファッションがいけてる。デニム生地のタイトなスカート。大きく開いた前スリットを気にする様子もなく足を組む。
こういう服は、気にせずにエイヤッと着るのがコツだと思う。その思いっきりの良さは所作に現れる。着物を着て、動きが変わるのと同じ理屈だ。型を変えれば、中味は自ずと変化する。
いい仕事しようと思うなら、いいスーツを新調しろとワシは言うが、この理屈だ。
ああ、昨日のコンサルでも同じこといったな。型を変えれ!って。
スリットのおねいちゃんの電話がなって、誰かと喋っている。
言葉がこの辺のニュアンスではない。
今?ナントカヤシキ?ヤマトヤシキ?のとこのタリーズ。
えー、いくいく。私がそっちに行ったらいい?わかった。
ジジイはまだ喋るのをやめない。
話はいつの間にか、かっこいいタバコを吸う映画の話になっていた。
人は誰もが自分の存在を確認するために人を求める。
ジジイになるとなおさらで、一人でいると自分が生きているのか死んでいるのか、あるいは、透明なのか見えているのかの確認がしたくなるのだろう。
内容や返事なんてどうでもいいのだ。
ガラスの向こうの無声映画にワシがセリフをつけたように、ジジイはワシと会話をしているようで自分と会話をしている。
そして、ワシも同じだ。ジジイの話に相槌を打ちながら、ワシは頭の中でこのモノローグをエバノートに打ち込んでいる。2015/10/17