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西鶴アーカイブ

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【読んだ本のブックレビュー】

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この前から有川浩(最近は有川ヒロと改名)の小説にハマっているんだが、たぶんこの人、実はスゲー小説を書く力(それが何かわからんけど)を持っていて、その半分ぐらいの力で書いてるような気がする。

 


軽い文体とかがそう思わせるんだろうが、いわゆる文豪みたいに「人生かけて書いてる」感じはしないし、眉間に皺を寄せて世界の苦悩を背負ってる感じが透けてみえない。

 


けど、小説自体は多面的に構成されていて、一つのテーマの裏にまた別のテーマが織り込まれていて、それを一枚づつめくっっていくと、最終的にはすげーでかいものが現れる。

 


なんつーか、超圧縮小説つーの?けど、重くないというおもるべし技術で書かれているのだ。

 


この本「フリーター家を買う」も、こんなタイトルの本をワシは絶対買わない。有川浩だから買った。なーんとなく内容がわかる気がするやん?

 


ダメダメなフリーターが、なんかがあって、これじゃダメだ!と思ってガンガルーみたいな。そこで意識高い系の説教がいろいろ入ったり、あるいは金持ち父さん系のハック技が入るみたいな。

 


いや、ダメダメなフリーターがガンガルまでは同じだ。

だが、有川浩は説教や金持ち父さん系の技の替わりに、別にテーマを隠して入れている。

 


それに気がついた時に背筋が凍る。

 


ものがたりは、バイトすぐにやめちゃう主人公のモノローグで進行する。

 


母親が、重度な鬱になる。その原因は複合的なんだが、ご近所のイジメがあったことを主人公は知る。

引っ越しをするために頑張る。

 


それだけの話なんだが、途中に捨て猫の話とかでてくるんだが、どれも日常的でまあワシの周りでも似たような話はありそうだ。

 


が、そんな日常のエピソードが本を読み終えた時に惑星直列する。

 


いや、本のものがたりはハッピーエンドだが、ちょっと待てよ?と。

 


そこで作者が、フリーターが仕事を始めるトリガーとして母親の精神病という要素をなぜ設定したのか?なぜご近所のイジメなのか?などが意図されたものだと気がつくのだ。

 


例えば、精神の病気は、たしか100人に1人以上のだったかな?の割合で発症する。この病気もどこからの線引きなのかは難しいグラデーションになっている。

 


一般的に普段の生活に支障が出始めたら、「誰か」が気がついて病院にいくわけだが、「誰」が気がつくのか?駅前で暴れていたら通報によって気がつく。が、そんな例ばかりではない。

 


ちょオカシイんじゃないか?と思っても、それは知らんぷりだ。明らかにオカシくても、余計なお世話を人は優先する。

 


この本には「無敵な人」はでてこないが、それは主人公を取り巻く環境、昭和な人が満載の土建屋のオッサンたちがいたからだ。

 


このオッサンたちと出会わなかったら、この小説はハッピーエンドにはならなかっただろう。

 


この本はそういうテーマを底に抱えているのだ。

 


しかし、余計なお世話をするように今の社会はできていない。まあ、触らぬ神に祟りなしと、無視するしかできない。