turuya

西鶴アーカイブ

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【代表が勝手に喋る「あの世」の正体】

 

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誰も知らないものには名前がついてないだろ?逆に名前がついてるものは誰かが知ってるものだ。だから私たちは名前を重要だとする。

 

たとえば、お前の足下にあるその小石。いまは名前がないから小石としか呼べない。ちょっと、その小石に名前をつけてみるとする。石ちゃんでもいい。名前をつけたとき、その小石には魂が宿る。生きてる石、生石だ。

 

その名前が有名になって誰もが知ることになると、その石の位はどんどんあがり、神がかってくる。やがて、それは生石ちゃんじゃなくて生石神社と呼ばれるようになる。

 

そういう理屈で、私は君にたたり塚に名前をつけてやって意匠もつくってくれと頼んだわけやね。

 

代表は、細い目で笑いながらそんな屁理屈を述べるのだった。

 

私らは、人の認識下に世界をつくっている。たとえば、核でケンカ初めて人間が一人残らず死んだとしたら、私らの世界も消えてなくなる。誰も名前で呼ぶ奴がいなくなるから、無いのと同じだ。

 

人間は、あの世とかいうのはこの世よりも広い世界で空にぷかぷか浮いてる見えない空中都市か何かだと勘違いしているが、そうじゃない。

 

個人の認識のネットワークの上にあるのがあの世だ。

が、ある意味ではその広さは物理的なものを凌駕する。オンラインゲームには物理的な地平線がないのと同じだ。人の頭の中では宇宙の果てまで一足跳びだろ。

 

よく人が死んだときに「君は僕の心の中で生き続けてる」なんていう台詞あるけど、ある意味あれは正しい。というか、あの言葉私が昔、和歌詠んでたやつに教えたんやけどな。

 

だから、人間はある程度自分の生活が安定してきたら、歴史に名を残そうとやっきになる。歴史書の名前が乗ると、もうあの世では神になれるからな。悪名高きやつは邪神に、善良なやつは神に、いずれにしても消え去ることはない。

 

墓なんてのもそうだ。名前を残すのに一番確実なのは石に刻むことだからな。

 

ところが最近は困ったことにデジタル化の波があの世にも押し寄せてきている。いや、あの世がデジタル化されたんじゃないぞ。電子データなんてものは場合によっちゃ紙よりも儚い。

 

太陽フレアの大きいのがひとつこの星をなぜるだけで、消えてしまう。君も仕事のデータを飛ばしたことあるだろう。本当に跡形もなく消えてしまうんだ。

 

君のスマホにもワンコの写真とか動画が残っているだろ。ワンコの肉体は滅んでもそこに存在の証は残っている。すなわちあの世にワンコはいるということだ。

 

が、そのバックアップもない場合、スマホが壊れたらそれでおしまいだ。

イクラウドなんてのも何十にもバックアップとってるが、しょせんは形のないもの。儚いものだ。

 

代表は、そんなことをだらだらと喋り、ワシに次の指令を与える。

 

加古川の北に金を抱え込んだ大蛇がいる。昔は、金持ちになるとかで参拝する者も多くいたらしいが、最近は忘れ去られているらしい。金は、鐘で近所の寺の鐘を守って池の底に沈んだ大蛇が神になったものだ。

 

そこの御札をつくってほしい。

報酬の代金は、さっき「あの世」の理を君に教えたから前払いだ。

 

またしてもワシは「狐につままれた」ように代表の宿題にとりかかるのだだった。