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西鶴アーカイブ

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アリとキリギリス

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自分がグズだと悩んでいる人って結構多い。つか、ほとんどの人がそうじゃね?
 
ワシも昔、子供の頃は(まあ今もだ)そうだった。
 
今日やるべきことを先延ばしにする。
つい、他のことをしてしまう。
奮起して計画をたてるも、それが実行できねー。
 
そんなモヤモヤした思いを抱えた、一番古い記憶は小学生の夏休みの宿題だろうか?
 
夏休みの前には計画を立てる。嬉々として立てる。けれど、それが実行できるのはたかだか数日。結局山のような宿題を見てうんざり過ごす夏休みの後半。
 
 
ある日、親父に聞いてみた。
なんで、計画通りに進まないんだろう?
 
親父は、そりゃ、やりたくないからだろと言った。
 
いや、そうじゃなくて、やらんとあかんねん。それができひんねん。
 
親父は、誰でもそうだろと笑っていたが、クラスメイトで計画通りににやってる奴はいるんか?いるならそいつにコツを聞いてみろと言った。
 
ワシはさっそく、そいつの家まで自転車を飛ばした。
 
そいつは、2階建の長屋みたいな市営の住宅がならぶところに住んでいた。
 
長屋の外では、なにかの鍋をグツグツ煮込んでるおばはんがいた。暑いから外で料理をしているらしい。シミーズっていうんだっけ?その胸元から乳が見えていた。
 
なんか異世界に迷い込んだような一角で、そいつは赤ん坊を背中に背負って兄弟か近所の子供かわからんが、年下の子供となにやら遊んでいた。
 
ワシは、そいつに用意していた質問をした。
 
そいつは嬉しそうにちょっとこっちきてと家の中に招き入れてくれた。
 
市営住宅の長屋にはそれぞれに小さな庭がついている。そこにプレハブの小屋のようなものを建てて、そこがそいつと兄弟の子供部屋のようだった。
 
当時のワシは、廃業した古いホテルに住んでいたので、その狭さは逆に羨ましく思えた。秘密基地みたいだ。なにしろワシの部屋は24畳もある大広間だった。
 
他人(といっても兄弟だが)の息遣いまで聞こえる小屋。そこに押し込められた2段ベッド。
 
脚が折りたためるちゃぶ台が勉強机だ。その隣には、なにやら紙ふうせんみたいなものがカゴに詰められて置いてある。
 
ワシはてっきりなにかのオモチャだとおもって手にとろうとしたら、そいつが触っちゃダメと大きな声をあげる。
 
内職の道具なのだそうだ。それを今日中に仕上げるのがそいつの仕事なのだった。
 
ションベンのような麦茶をごちそうになりながら、いろいろ話しをしたが求めている答えは返ってこなかった。
 
話しをしながらもそいつは、背中の赤ん坊を気にしながら、紙ふうせんを作っていた。ワシも手伝いながら喋った。
 
どうやら、そいつは夏休みといえど、休みなんかはなくて、まだ学校にいってるほうが楽しいということだった。
宿題なんかしてる暇なんかねーとそいつは言った。
 
やりたかないし、そんな暇ないけど、毎日やらんとやっていけん。たんに日課やねん。
 
帰ってから、ひろい大広間のど真ん中にキチキチベット(キャンプとかで使う折りたたみのベッド)を広げて寝そべりながらそのことを考えた。
 
なんで、あんなに忙しそうなのにちゃんと宿題をやってくるんだ?ワシはなんでこんなに時間を持て余しているのに宿題ができないんだ?
 
答えはみつからなかったが、あれからワシはそんな悩みは忘れてしまってた。なにか吹っ切れたように宿題なんかせずに夏休みを満喫した。
 
くわがた虫やサンショウウオアカハラを採りに出かける。採ったサンショウウオアカハラを水族館に売りにいく。(金のかわりに入場券と交換してくれた)
 
ガソリンスタンドを回ってステッカーをもらいにいく、もらったステッカーを売りにいく。(当時はどこのスタンドでもメーカの販促品のステッカーが大量にあった)
 
爆竹を分解して時限信管(爆弾)をつくる。防空壕跡でそれを爆発させる。
 
宿題?なにそれ?聞いてねーし。
 
時々、例の忙しい奴の家に行って、ステッカーやクワガタをお土産に持っていって、ションベン麦茶を飲みに行ってた。
 
ある日、なぜか忘れたがそいつの夏休みの日記をみたことがあったが、そこにはワシの土産話がいっぱい書かれていた。
 
いっこうに宿題をしないワシに先生はよく「アリとキリギリス」の話をしていた。
 
その話しを聞いて反省して宿題をするどころか、平べったいガラスを合わせてアリの巣の観察キットをつくって、毎日アリを眺めているというどうしょうもないガキだった。
キリギリスは生理的にダメだったんで観察しなかった。
 
 
あれから、何十年たった。今もかわらず、ワシは毎日が夏休みのような生活を送っている。
 
あー、今日もやり残したタスクがある。
あー、もう暑いから明日にしよう。
あー、今日はもう昼から休みにするにゃっ!
 
けれど、モヤモヤした気持ちはなく、かといって、あの一時期の頃のように吹っ切れて遊び回るわけでもない。
 
人は誰もがそうであると知っているし、
けれど人は誰でも約束を守ろうとするし、
人は誰でも環境に影響を受けているが自覚がないし、
人は誰でも理屈で自分をねじ伏せようとするし、
 
なにより、人は誰でもそれぞれの優先順位を持っている。
 
「未来には不安を持て。
そしたら、今日の一部を明日へ投資する心構えができる。
過去には感謝しろ。
そしたら、今を大切にしようとする心構えができる」
(2016/7/30)