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西鶴アーカイブ

いろんなところに書いてきた文章のアーカイブ

かさなりあうことで世界は拡張されるにゃ

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(2014/11/28)

打ち合わせしてたら、どうも相手の表情が暗い。
 
小さなサンタのブーツに入ったラムネをクリスマスプレゼントにゃ!とわたすと、ほっとした笑顔になったんだが、そのあと小さなため息をもらしているのに気がついた。どしたん?って聞いたら、こんなこと言うのもなんだが、と話し始めた。慎重に愚痴にならないように気をつけてその人は喋り始める。
 
話を聞いていて、「ああ、ここもか」と思った。
 
 
オーサカのある会社。数年前にムチャぶりな仕事を引き受けたんだが、中小ではあるが業界の老舗だ。ここの会社で初めて打ち合わせをしたとき、なにか違和感を感じた。社員食堂があり、テラスがあってゆっくりコーヒーを飲めるようになってる。ちゃんと豆から挽いてくれる自販機があり、テラスではタバコも吸える。年代物の自社ビルだが、そこがまた雰囲気があっていい。こんなとこで仕事してぇええ!もちろんおねちゃんもたくさん働いてる。
 
けど、環境整備や福利厚生はちゃんとされているようなのだが、なんとなく会社に活気がない。
 
しばらく付き合ってみてその理由がわかった。ここの社長が社員を怒りまくるのだ。なぜ、こんなミスがおきるのか!なぜやる気にならないのか!なぜ、売り上げを達成できない!
 
そのため、社員はいい仕事をするよりも「怒られん仕事しよう」という意識に自分でも気がつかないうちになびいてしまっている。
 
だから企画会議をしていても、その企画の問題ばかりを探し始めてしまう。「やらない理由、やれない理由」をあげればキリはない。リスクを想定するのはもちろん必要だが、むしろ互いに足を引っ張りあってるように見える。
 
ある時、この会社の名刺をつくってくれと言われた。この会社、自分とこにデザイン部門もあるのだが、まあ来た仕事は断ることもない。元の雛形だけつくって、あとは自分たちでやってよねーということで引き受けた。
 
数種類つくったのだが、どーもグズグズしていて1ヶ月以上かかった。どうやらデザイン部門が足を引っ張っていたらしい。
 
ワシは外部なのでカンケーないが、内部のものは大変だ。味方が味方でないのだから、組織でありながら孤軍奮闘することになる。もちろん会社員だから給料だ。給料でてるなら、自ら手をあげて、社長にボロクソ言われるよりは、社長と同じ立場で「ほれみたことか」と批判しているほうが当然カシコイ選択だ。
 
この社内の風土?は、外注にも影響を与えている。何度かデザインの相談を受けたのだが、どーもイマイチなのだ。で、ワシに頼もうとするのだが、いや大阪といえど往復で2時間、たまにならいいけど、この仕事ははりつきになる。当時はワンコが4匹だったんでもー物理的に無理!つか、他にいくらでもいるでしょ。
 
さらにヒヤリングをしていくと、外注先のデザイン屋もべつに駆け出しでもなく、いい仕事はしているのだ。ただ、なんやかんやと足を引っ張られるので余計なことはせずに、はいはいと言いなりで仕事をこなしているだけなのだった。
 
 
あるとき、社長がそばを奢ってくれた。わりと高級なそば。そば好きのワシはほいほいと付いて行ったのだが、そばを食っている間、ずーっと社長の夢を聞かされ続けた。高級なそばの代金だと思って聞き役してたのだが、その時フト思った。この人、きっと社員にも同じ話をしている。間違いない。
 
 
人の夢ほど退屈なものはない。ましてや社員はそれに付き合えと言われているのだ。朝から晩まで、その夢に向かって何ができるか?何をしたらいいのか?それを考えるのがお前たちだ。
給料という首輪と、家族という人質を取られていなければ、たいていの人は逃げ出す勢いだ。
 
結果社員は、えいえいおーと掛け声だけを合わせ、会社でぐるみでごっこ遊びをしているような状態になっているのだ。
 
ワシは正直にそのことを伝えた。はだかの王様のたとえまで出して伝えた。仕事を切られてもいいと思った。というか、その時点では切られてもとくに痛手があるほどしていなかったというのもあるんだが、その時にはこの会社の個人個人がワシは好きになっていたのだ。
 
皆、一人一人ではとてもいいパパで、ママで、かわいーねーちゃんで、ナイスなねーちゃんで、男はまあどちでもいい。
 
彼らには彼らの生活があり、夢もあるだろう。本質的に働いてるのはそのためで、社長の夢をかなえるためじゃない。広告もそうだ。これを買えといっても誰も買わない、これをやるといっても貰うのはわずか数パーセントだ。それがてにはいると、「あなたは、こうなりますよ」というのを提示しないと人は動かない。
 
あれから、もう数年になる。社長は今でも怒っているらしいが、ずいぶん変わったそうだ。あるときは、飲み会の席で社員に泣きながら頭を下げたという噂を聞いた。働いてくれてありがとうと言ったらしい。
 
世界はAカップBで、構成されている。AキャップBでもなければ、BキャップAでもない。あなたの課題解決は、わたしの課題解決につながる、これが重なりあうということであり、縁であり、関係の本質なのだ。どっちが上でも下でもない、支配することでもされることでもない、勝ったでも負けたでもない。ただ、単純に支え合い、助け合うということだ。
 
だから、ワシは今日もクライアントにたづねる。
 
「これ、客が買ったら、どーなるん?えーことあるん?」
 
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